日韓は地域の最大のパートナー

ついに22日、韓国がGSOMIA(軍事情報包括保護協定)を破棄する方針を決定するまでに日韓関係が悪化した。大変深刻である。

GSOMIA破棄は、日韓関係だけでなく、東アジアの平和と安全の秩序にとって致命的な変化を引き起こすことになりかねない。その意味で、文政権の決定は近視眼的ではないかと思う一方、安倍政権は対韓経済制裁に安保を結びつけてきっかけを作ってしまったことは安易だったのではないか。北朝鮮問題はじめ激動する東アジアの安全保障環境のなかで、日本国民の生命と財産を守るためにどのような具体的戦略の上にやっているのか不明で、「不戦の国」として国民を守る安保ビジョンは何なのかと本気で心配になる。

GSOMIAは、日米韓連携の象徴とも言われるが、それだけでなく、事実、地域の国同士である日本と韓国が、米国を介さず、地域の安全保障を直接やりとりできる二国間の協定である。2012年で一度延期になり、2016年に締結されていて、ある意味、ガラス細工のような交渉を経て成立している。

北朝鮮の核やミサイルはもちろん、対中や対露、米中貿易戦争の一方で米台関係や香港情勢など、東アジアに大きな地殻変動が起きているなか、日韓は、法の支配に基づいて自由主義と民主主義に信をおく国同士として東アジアの将来像を共有する相手だ。

日韓は経済関係で考える以上に、安全保障関係における地域の重要なパートナーであるというメッセージを出すべきである。

今回、元徴用工の訴訟問題に端を発する歴史問題について、私が日本社会の側の理解に欠けていると思う点は、日本が最終解決済みとする1965年日韓請求権協定は、韓国国民からすれば当時民意を弾圧し続けた自国の軍事政権下で政治決着したものであるという怒りと痛みが残っていることだ。それをどう解決するかという政治的方策の前に、韓国が壮絶な民主化闘争を経て、民主国家となり、何度かの政権交代を繰り返し現在の文政権に至っているという歴史の流れと日本の戦争責任に対する問題の根底にあるものについて、旧宗主国として理解する必要がある。社会的な解決を探る道があるのではないか。

しかし、それに対して、安倍政権が取った行動は輸出優遇対象国から外すという高圧的な措置だった。理由に「安全保障への懸念」をあげたのは相手を信用していないと受け取られても仕方ない。タイミングも含め軍事機密情報をやり取りするGSOMIAのある隣国に対して、本来あり得ないことであり、どういう反応がくるかは想像できたはずと思う。

話は日韓を離れるが、最近、台湾が米国から陸空軍装備を大量に買い入れる異例の決定をしている(水陸両用の戦車100台以上、F16v戦闘機66台)。米中貿易戦争の行方や香港情勢、ひいてはインド太平洋もにらみながら、米国による対中国政策が着実に進んでいるとみていいと思う。

ここで、肝心なのは、それは日本にとって平和と安全のメッセージなのか、
それとも、紛争と対立のメッセージであるのか、ということである。

地域で対立が深まれば、日本も自由な社会ではいられない可能性もある。

韓国との関係悪化によって、周辺を見渡せば、日本には、米国以外、東アジアの地域に「友人」と呼べる信頼しあう“国”が一つもないという異常な事態こそ、我が国の安全保障にとって深刻ではないのか。

激動する東アジア情勢と日本の安全保障についての議論が、国民に伝わる形で、まるで国会にもメディアにも社会にもないことを私は最も危惧している。これでは「平和ボケ」と言われても仕方がないだろう。

「不戦の国」としての外交や安全保障のあり方について今一度考え、これまでタブー視されてきた憲法論や防衛論の議論を恐れず、平和構築の視点で、自らの頭で考え、信頼に基づく地域の平和秩序と国民の生命と財産を守る安保政策を打ちだす責任がある。